大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和63年(オ)958号 判決 1992年10月29日

上告人

株式会社西友交通

右代表者代表取締役

高村晃

右訴訟代理人弁護士

青木栄一

成瀬伸子

伊藤貞利

片岡信恒

被上告人

沈允南

崔正美

崔明錫

崔敏錫

崔淑美

右五名訴訟代理人弁護士

伊藤典男

伊藤倫文

主文

原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

被上告人らの本件訴えを却下する。

訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。

理由

上告代理人青木栄一、同成瀬伸子、同伊藤貞利、同片岡信恒の上告理由第一の一について

被上告人らの訴えは、被上告人らが上告会社の株主であることを前提に、上告会社が昭和五五年八月一日にした六〇〇〇株の新株発行が存在しないことの確認を求めるもので、被上告人らは、上告会社の株主である理由として、亡完山正治こと崔載仲が亡丹羽久章から上告会社の株式二六〇〇株(以下「本件株式」という。)を譲り受け、その後、被上告人らが崔から本件株式を相続して上告会社の株主となった旨を主張している。

しかしながら、被上告人らは、本件とは別に、上告会社との間で、被上告人らが本件株式を所有する株主であることの確認を求める事件を提起していたところ、同事件については、最高裁昭和六三年(オ)第九五二号平成四年六月二五日当小法廷判決をもって、被上告人らが本件株式の株主でないとした控訴審の判決が確定していることが明らかである。そして、被上告人らは、本件新株発行につき、他に格別の利害関係を有するものとはうかがわれないから、被上告人らには本件新株発行が存在しないことの確認を求める訴えの利益がなく、本件訴えは不適法として却下すべきものである。論旨は理由があり、本案につき判断した原判決は破棄を免れず、第一審判決は取り消されるべきである。

よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官味村治 裁判官大堀誠一 裁判官橋元四郎平 裁判官小野幹雄 裁判官三好達)

上告代理人青木栄一、同成瀬伸子、同伊藤貞利、同片岡信恒の上告理由

第一 原判決には、次の通り、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違背がある。

一 原判決は、職権調査事項に属する、被上告人らによる本件請求の確認の利益の存否について、裁判所に顕著な事実を看過した。

この審理不尽は、民訴法一八二条に違背し、かつ、判決に影響を及ぼすことは明らかである。

被上告人らは上告人会社の計二六〇〇株の株主である旨主張し、上告人はこれを否認したところ、原判決は被上告人ら主張の通りの事実を認定した。

然るに、被上告人らは、既に別訴において、上告人会社の合計二六〇〇株の株主たることの確認を求めて訴訟中(名古屋地方裁判所昭和五五年(ワ)第二六三三号株主権確認等請求事件、その控訴審名古屋高等裁判所昭和六〇年(ネ)第八号株主権確認等請求控訴事件)であり、添付判決書の通り、原判決言渡の一日前の昭和六三年三月三〇日、名古屋高等裁判所(民事第三部)において、被上告人らの請求を棄却する判決が言い渡されている。

右判決は、主文において、被上告人らが上告人会社の合計二六〇〇株の株主であることの確認請求を棄却し、その理由中判断において、被上告人先代亡崔載仲と訴外亡丹羽久章との間の二六〇〇株の株式譲渡が存しなかったことを認定している。これは事実認定の問題であり、従って、上告審において、右認定が覆される可能性は少ない。

被上告人らが、上告人会社の株主でないとすれば、被上告人らは、本件確認請求において、確認の利益を欠くことになる。

現行民訴法において、二つの訴えが係属し、一方の訴訟の判決が他方の訴訟の判決の前提をなす関係にありながら、弁論併合されない場合においては、相互に矛盾する判断がなされることも有り得る。

しかし、本件においては、同じ裁判所において、一日前に前提をなす事項についての判決がなされたことは、裁判所に顕著な事実であり、かつ、前提をなす右名古屋高等裁判所昭和六〇年(ネ)第八号事件の判決事項は、原判決の職権調査事項たる訴訟要件に関するものであった。

従って、原判決をなした裁判所が、これを看過したことは、民訴法一八二条に違背する審理不尽があったものである。

二ないし四<省略>

第二<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例